「社会保障」のしくみ理解してますか?

 年金、医療、介護、障がい者福祉、失業対策、生活保護、これらをまとめて社会保障といいます。(ちなみに国の予算の上では、社会保障関係費と呼ばれています。)

 日本の社会保障の特徴は、年金給付費、医療給付費、介護給付費の占める割合が大きい点です。完全に同じではありませんが、これらは2008年まで「社会保障費」と呼ばれていたものを指しています。

 社会保険というのは、税金を払うのではなくて、社会保険料を払うことで保険料を払った人たちの将来のリスクを低くしようというものです。ただし、税金が全く使われていないわけではありません。この社会保険料を基本としながらも、予算の上では年金や医療、介護に必要なお金の一部を国が負担し、また、貧しい人への補助などを行うためにも、国は税金を使っています。

 人間は生きている限り、病気になること、年を取ること、仕事を失うことといった様々なリスクに直面します。企業と働く人の双方が社会保険料と呼ばれるお金をあらかじめ出し合うことで、こういったリスクに備えること、またその一部を税金によって手助けすること、これが日本の社会保障の形です。

 それでは、命や生活のリスクは民間の企業が準備している年金保険や医療保険によって個人の力でカバーすることができるのに、そもそもどうして社会保障が必要なのでしょうか。少し考えてみましょう。

 民間企業はお金儲けが仕事です。民間の保険会社の場合、本当に必要な額よりも高い額が保険料として設定されるのではないでしょうか。また、その保険料を負担できる、余裕のある人たちだけがリスクを避けられるとすれば、皆さんはどう感じますか?加えて、民間保険の場合、リスクに応じて負担が変わります。貧しい人たちのほうが無理に働いて体を壊しやすかったり、普段の生活が原因で病気になりやすかったりしているとすれば、貧しい人たちの保険料は高くなるかもしれません。もし、国が規制して同じ保険料にしたとします。ですが同じ負担で貧しい人たちばかりが保険の給付を受けられるとなれば、おそらくお金持ちの人たちは怒ってしまうに違いありません。保険の仕組みを人間の生活に直接結びつけてしまえば、貧しい人たちが見捨てられたり、裕福な人たちの間で争いが生じたりするかもしれません。お金を払える人たちだけが助けられる仕組みではなく、社会全体としてリスクに備える仕組みを作ろうというのが社会保険の考え方なのです。

 社会保険は税金ではなく、働いて手にした収入の一部から支払われた社会保険料を土台にして成り立っています。自分で稼いだお金に応じて保険料を払いますから、例えば年金であれば、裕福な人ほどもらえるものが多くなります。逆に、保険料を払えない人たちは基本的に年金や医療介護などの社会保障を受ける権利を持たないことになります。

 社会保険の仕組みは「働く人のリスク」への備えとして発展してきました。つまり、働くことができなくなったとき、そこで亡くなる所得を補うように社会保険は作られてきたのです。ですから、お金の支払い=「現金給付」がメインとなります。

 ヨーロッパの社会保険を見てみましょう。年を取って働けなくなる時に所得を失えば、年金がもらえます。病気になって所得が減った時には疾病手当てが、失業して困ったときには失業手当が、家族を介護するために仕事を休んだ時には所得を補うための介護手当がもらえます。働く人がお給料を失うリスクに備えて社会保険で現金を給付するという感じです。

 ここで一つ考えてほしいことがあります。働いていた時の収入がなくなるリスクは働いている人たちだけが備えればいいでしょう。しかし、医療や介護などは「現金給付」ではなく「現物給付」です。しかも働いていない人も含めた誰もが必要とするサービスですよね。この現物給付を社会保険の仕組みで提供しようとした途端、話はややこしくなります。誰もが必要とするサービスのはずなのに、保険料を払えない人たちがその中に入れないという問題が出てきてしまうからです。たとえば、小学校や中学校の義務教育は税金を使ってサービスがもらえます。ですから、収入の多さに関係なく、すべての子供たちが教育という現物給付を受けることができます。ところが社会保険の場合、働けない人、貧しい人は保険料が払えないでしょうから、社会保障に関する現物給付を受けることができなくなり、だれかに助けてもらわなければいけなくなります。

 この問題を考えるためにヨーロッパの医療制度を見てみましょう。イギリスやスウェーデン、イタリアでは、国によってばらつきはありますが、社会保険料で支払う部分が抑えられ、税金を思い切って使って医療の仕組みが動かされています。みんなが税を払うことによって、とても安い値段でだれもが医療サービスを受けることができるわけです。一方、フランスやドイツでは、社会保険を中心に医療を回しています。その意味で保険料の負担をしているかどうかが医療を受け取る権利と結びつくことになります。ただし、中身は日本と大きく違います。フランスでは、保険料を払わなくてもよい「普遍的医療制度」があり、ドイツでも貧しい人の保険料を政府が肩代わりしています。貧しい人や失業している人たちも、ほとんどの人がそのほかの保険加入者と同じように「権利」として医療を受けられます。

 ここで、日本の仕組みを見てみましょう。医療にかかるお金のうち、自分で負担する分が三割(一般の高齢者は一~二割)と高く、貧しい人は社会保険の中に加われず、生活保護をもらっています。フランスやドイツのようにほかの保険加入者と同じように医療を受ける「権利」を保証するのではなく、権利のない人を生活保護によって助けています。ヨーロッパ諸国と日本の違いは何でしょうか。生活保護を受け取ると、「社会的なスティグマ」といって、低所得者としての「失格者の烙印」を押されてしまいます。日本人はこのスティグマを嫌う傾向が強く、生活保護の利用率はほかの先進国と比べても段違いに低くなっています。

 日本の社会保険の下では所得の増減と命の安全・危険とがとなりあわせになります。ですから、ある調査では七割の人が医療の将来に不安を覚え、三割近くの人がお金を理由に病院に行くことをあきらめているという結果がでています。

 介護についても同じです。介護とは、年を取った時に障害を持ったり寝たきりになったりしたときに必要となる支援のことを指しています。日本では介護のも社会保険で提供されますが、サービスを受けられるのは65歳以上の高齢者だけです。また、一割から二割までの自己負担に加え、介護施設を使うには居住費、日常生活費、食費、がかかってしまいます。貧しいお年寄りは介護を、また、親の介護がある大人たちは仕事を、それぞれあきらめなければいけない場合が増えています。医療であれ、介護であれ、人間の命に関わるサービスですから、そのことで不安を感じる人は少ないに越したことはありません。

まとめ

 医療や介護など、賃金のあるなしにかかわらず、だれもが必要とする現物給付については税を使って、誰もが受益者になるほうが望ましいと考えています。皆さんはどうでしょうか。そのうえで、病気やケガ、出産、家族の介護などを理由に失われる「働く人の所得」をおぎなうための現金給付に社会保険を絞ったほうがよいでしょう。あるいは、社会保険でやるにしても、保険に入れない人たちにはただ生活保護をさせておけばよいということではなく、貧しい人や仕事をなくした人も気兼ねなく生活できるように最大限の配慮を行うべきではないでしょうか。

harukata

「大学では何をするんだろう?」「実際の授業はどんなの?」と思っている方のために大学の授業内容や、現役大学生に向けて、知っておくべき社会の問題などを主に紹介しています!将来に少しでも不安を感じている方の力になれれば幸いです。

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